あたしの彼はご主人さま -3

「あ、ああ、ああっ!」
 反射的に逃げようとするあたしを押さえ込みながら、馴染ませるように小刻みに動かせる。ムリにねじ込まずに、抵抗を取り除くようにじりじりと、彼は少しずつあたしの中へ入ってきた。
「う、くうっ。あ、はあ、はあ」
「痛い?」
「あ、く。ちょ、ちょっとだけ」
 本当はすごくキツかった。無理やり押し広げられてる気がする。彼氏のより、ずっとおっきい。どっかが裂けちゃいそうな気がする。でも、ムリに押し込むんじゃなくて、ゆっくり入れてくれてるから我慢できる。あたしが痛がってるのがわかってて、気遣ってくれてるんだと思う。すごく優しい。酷いことも言うけど、でも優しい。彼氏の自分勝手なセックスとは大違い。
「だろうなあ。キチキチだよ。普通は、こんだけ濡れてたらもっとユルいんだけど」
 小さく腰を揺すりながら彼は嬉しそうに言った。
「ほら、これで全部入ったよ。当たってるの、わかる?」
 ぐいと押された瞬間に、奥のほうがドンと殴られたように痛んだ。
「うん、わかる、くっ、ううっ」
 彼のが大きすぎるのかそれともあたしの深さが足りないのか、彼がちょっとでも動くと身体の奥の奥に食い込むように当たる。内臓をじかに押されているような重苦しい痛み。息するのもつらいくらいに痛いけど、でも。
「いいよ、千紗ちゃん。痛がってる顔が処女とヤってるみたいで興奮するよ」
 そう言うと、彼は低く笑った。その言葉通り興奮してるみたいで、さっきよりも呼吸が早くなってる。ときどき、ごくっとツバを飲み込んで、唇を湿らせるように舌で舐める。それがすごく卑猥に見える。痛くて苦しいけど、でも彼のそんな様子を見たら、なんか嬉しくなっちゃう。
「ああ……」
 溜息のようにかすれた声を吐きながら、あたしのふとももを、まるでバッグを持つときのように左腕にかけて、そして足首をつかんだ。胸にくっ付くくらいに押し付けて無理やり広げさせる。上半身を斜めの位置で固定して、あたしの中を大きなストロークでずりずりとこすりながら、彼からは丸見えになってしまっている、彼のを受け入れているあたしのあの部分を、空いているほうの指でなぞった。
「すごい、えっちな眺め。俺のチンポ、ずっぷり咥え込んでる」
「やだ、恥ずかしい!」
 髪を振り乱して、見ないでとお願いしたけれど、彼は愉しそうにくすくすと笑うだけで聞いてくれなかった。
「なんで? ピンクで綺麗だよ。濡れてぴくぴくしてて、可愛い」
「ひ、ひゃっ。あ、くうっ!」
 挿入されたままクリトリスをつんつん突付かれて、びくんと身体が震えた。その瞬間を見計らったかのように、彼は奥まで入ってたのをずるりと一気に引いた。
「あうっ」
 びくびくと勝手に身体が揺れる。あたしの反応に彼がくすりと笑った。ゆっくりと浅く抜き差しをしながら、彼の指はクリトリスの上で時計回りに円を描き続けた。
「く、ああっ。く、うっ、うんっ、ああああっ!」
「本当に感度いいね。凄いよ、ビクビク締め付けてくる」
「い、ああっ、いやっ!」
 触られながら入り口すぐのところを突き上げられると背中に電流が走る。抑えつけられて殆ど動かせない身体の替わりに手で彼を押し返そうとしたけれど、逆につかまえられた。簡単に片手でひとまとめにされて、万歳のように頭の上でシーツに押し付けられる。
「可愛いよ、ホントに」
「あうっ、むぐっ? うううっ!」
 覆い被さるようにキスをされた。舌を絡められて吸い上げられると、訳がわからなくなる。下から彼が腰を揺すると密着したあたしの腰も一緒に揺れる。奥に当たったままこすり上げられると、一瞬息が止まるほど痛い。痛いけど、痛いけど気持ちいい!
「ああん、ユーキさん。あん、あうん、あくっ!」
 揺すられるたびにあそこがぴくぴくしてしまう。気持ちいい。気持ちいいけど、でもなんか物足りない。もっと欲しい。もっと強くして欲しい。
「どうしたの、千紗ちゃん」
 卑猥な響きの声に訊かれて、あたしはどうしようもなくなって髪を振り乱した。
「ゆ、ユーキさん、ユーキさんの、もっと……!」
 言葉にならない。どう言っていいのかわからない。口に出せない。でも彼はあたしの言いたいことを簡単に理解してくれた。
「もっと突いて欲しい? 乱暴にしていい?」
「あう、そうっ! もっと欲しいのっ。――ねえ、もっとっ!」
 なにを言ってるのか自分でもわからないうちに、あたしは彼をねだっていた。腰をいやらしく揺すって、言葉だけでなく身体でも彼を求める。
「じゃあ、酷いことするよ。千紗ちゃんを壊しちゃうよ?」
「ゆ、ユーキ、さんっ」
「行くよ、千紗ちゃん」
 彼はさっきまでとは比べ物にならないくらい、激しく強く突き始めた。
「あ、くぅ、うあっ、あうううっ!!」
 内臓を殴られているような、吐き気さえするような重苦しい痛みは、ロストバージンのときに似てるけど、でも全然違う。あのときは痛いだけだった。今も痛いのはすごく痛いけど、でもイイ。気持ちいいっ!
 彼の手のひらに、身体を半分に折られるように抑えつけられてるふとももが、彼の動きに併せて胸を押さえてくる。その刺激がもっと欲しくて、あたしは背をそらして胸と腰を別々の方向にくねらせて、自分のふとももに乳首をこすりつけた。
「ああ、いいよ、千紗ちゃん。すごく締まる。食いちぎられそう」
 うめくように彼が言うのが嬉しい。あたしだけじゃなくて、彼も気持ちいいんだと思うと嬉しい。とっても嬉しい。
「千紗も、千紗も気持ちいい。痛いけど気持ちいいっ。あう、ユーキさぁんっ!」
「痛いのに気持ちいいの?」
 訊かれてあたしは何度も頷いた。
「奥に、ガンガン当たって痛いの。痛いけど、でもこすれて、あああっ」
 ずるずると引き抜かれて押し込まれて、びくっと身体に電気が走る。彼のが入ってるあそこがびくびくする。ひざがあたしの意思とは関係なくぶるぶると震え始めた。
「よしよし、いつでもイっていいからね。何回でもイっていいからね。でもイくときにはちゃんとイくって言うんだよ。いいね?」
 細かく震わせた指先をクリトリスに当てられて、あたしはもう耐えられなかった。
「はい、千紗イきそう、イきそうですっ!」
「そう、ちゃんと言えたね。いいコだ」
 ご褒美のように、彼はクリトリスを指の腹に軽く押し当てたまま、ゆっくりと手を動かしてくれた。ずるずると指全体を使って、行ったり来たりしてこすってくれる。堪らなくなって、あたしはガクガクと腰を振った。もっとして欲しい。自分がひくひくしてるのがわかる。
「あっイくっ、イっちゃうっ! あ、ああっ、ああああ!!」
 強くつむった目の前が白くちかちかと光った。身体がビクビクッと痙攣する。ひとりえっちのときの感覚とは比べ物にならない、おかしくなりそうな快感。頭の中が星でいっぱいになる。真っ白になる。なにを言ってるのかわからない。どうなっているのかもわからない。
「ああ、すごいっ! こんなすごいの、こんなの、あ、あっ、あああっ!!」
「いいよ、すごくいいよっ」
 彼の声が切羽詰ってきてると、どこかで思った。彼も気持ちいいんだ、イくんだ。あたし、ちゃんと男の人を気持ちよくさせることができるんだ。不感症じゃないんだ。
「ああ、ユーキさぁんっ!」
「千紗ちゃん、出すよ、出すよっ」
 叫ぶように言うと、彼はうおっと低く吼えた。
「千紗っ!」
 びくびく震えながら、ユーキさんは乱暴にぐいぐいと突き続ける。あたしの中で暴れ続ける。そんな彼の動きが、これ以上はないと思ってた快感の更に上の嵐に、あたしを放り込んだ。
「ああっ、イく、またイく、ああうぅっ!! うそっ! またっ、またイっちゃう! あくっあくっ、あう、イくイく、イくよおっ! またイく! うあっ、あああっ!!」
 あごをそらせて胸を揺らせて腰を振って、彼のをぐいぐい締めつけて、叫んで叫んで、初めてのセックスの頂点に声を嗄らして叫び続けて、そしてあたしは糸が切れたように意識を失った。





 それからもあたしたちは、憑かれたように何回もセックスをした。汗まみれの身体をすり合わせて貪欲に快楽を貪りあった。
 彼氏はいつも正常位でのしかかってくるだけだから、あたしは他の体位を知らない。ソファの背もたれに捕まって、後ろから激しく攻められるのはすごくよかった。後ろからされると、ぐちゃぐちゃになった顔を見られる心配もないから、そのことを全然気にしないで思いっきり乱れられるってことに気付いたのは、思わぬ収穫だった。でもそれ以上に、動物の交尾みたいなあの体勢が本当に犯されてるっぽくて、あたしこんなことされちゃってると思うと興奮した。
 騎乗位のときの腰の使いかたなんかも教えてもらったけど、あたしは言われたように全然動けなくて、結局は彼に下からガンガン突き上げられて一人でイっただけだった。あたしってホントに何にも知らない上に、ヘタ。
 それに比べて、テクニックをいっぱい持ってて何回でも相手をイかせることができるユーキさんが羨ましい。そうユーキさんに言ったら男と女の違いだって笑われた。
 男はそんな何回もイけないんだよ。そう言っておかしそうにユーキさんは笑ったけど、ユーキさんを見てる限り、そうは思えない。出した直後でも、ちょっと舐めてあげるとすぐに回復する。肩幅とかは広くてお腹も締まってるけど、でもどっちかというと細身ですごい筋肉な身体じゃないのに、疲れ知らずっていうか、本当にタフ。
 だから、二時間の休憩時間を一時間以上延長してホテルを出たときには、もうあたしはヘロヘロになっていた。彼の支えがないと立ってられないぐらいで、助手席になんとか乗り込んだあとは記憶がない。起こされたときはもう家の近くの公園前だった。
「着いたよ、千紗ちゃん」
「え、あ。あ、はい」
 目を開けて口元をこぶしでこすりながら慌てて起き上がると、ユーキさんは笑みを残した目であたしを見ていた。音楽とかはかかってなくて、エアコンが温風を吐き出す微かな音だけが聞こえる。ふんわりとオレンジみたいな柑橘系の香りが漂っている。多分、ユーキさんがつけている香水か整髪料の匂いだと思う。爽やかで少し甘い。
「千紗ちゃん。また、俺と逢ってくれる?」
 寝起きのボケた頭にストレートな言葉は、逆に意味がわからなかった。黙ったまま何回かまばたきをした。

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