あたしの彼はご主人さま 番外編
俺が彼女を縛る理由 -4

 髪を振り乱し背でアーチを作り肉の薄い腹をくねらせ、紺のソックスに包まれたふくらはぎを高く上げて天を指しながら腰を振る。体裁も何もあったもんじゃない乱れっぷりが男を煽る。
 だが、彼女にとっては甘美な地獄だろう。暴虐に耐え続けてる身体を震わせ、快楽に吹き飛びそうな意識を抱え懇願する、その表情がたまらない。
「お願いです、ご主人さまっ! 狂っちゃいます! 千紗、おかしくなっちゃいます! イかせて! イかせてくださいっ! もうイかせてぇっ!!」
 血を吐くような叫びもビクビクと震える身体も、限界まできているのだと必死に訴えていた。彼女は俺の許可が出るまで耐えなければならない。俺がいいと言うまで、イくことは許されていない。許可なくイった場合にはお仕置きが待っている。
 それでも経験が浅いからか感度がよすぎるせいか、彼女は三回に一回は許しのないままイってしまう。調教の失敗といえばそれまでだが、タガが外れたように絶頂に狂う彼女の姿も悪くはなかった。
 精神までも完全に従わせると、どんなことも受け入れる穴奴隷になる。それはただのダッチワイフだ。そういうのが好みだという男も勿論いるのだろうが、俺はやはり、女は恥ずかしがり抵抗し、やがて耐え切れず流されるように快楽に溺れて行くのがいい。だから俺は中途半端な進み具合で彼女のしつけを止めていた。
 彼女は店に出す商品じゃない。誰にでも腰を振る必要はない。俺だけに奉仕すればいい。
「本当に好きだな」
 沸騰しそうな思考を制し、わざと冷たく吐き捨てる。
「ほら、イけよ。淫乱猫」
 赤く腫れ上がりぬめるように光るクリトリスに、ローターを強く押し付けた。
「ああっ! うあっ、ああっ!! イくっ! イくイくうっ! ああっ、あああっ、あああっ!!」
 限界はとっくに超えていたのかもしれない。
 許しを出した瞬間に彼女は絶叫した。腰をすりつけるように振り、縛られた腕を支えにして背をぐうっとそらす。
「う、くうっ」
 その強い締め付けに堪らず、俺は獣のような息を吐きながら強く激しく腰を打ち付け始める。自分を追い詰めるための最後のラッシュ。だがそれは、彼女をも追い詰める。
「ああっ、ご主人さま! また、またイきます! ああ、あうっ、ううっ、イくイくイくっ! ああ、許して! またイくぅうっ!!」
 可愛い顔で泣き叫び、狂ったように連続してイき続ける身体を抑えつけ、彼女の中を使ってぐいぐいペニスをこすり上げる。止めさせようとするかのごとくの締め付けに逆らって激しく抜き差しを繰り返す。体内に吹き荒れる嵐がせり上がってくる。開放しろと突き上げてくる。
「そろそろ、出すぞ」
「あああ、ください! 千紗の中に、ご主人さまのミルク、くださいっ!!」
 聞こえているとも思えない様子だったが、彼女はきちんと反応した。
 コンドームをつけているので中出しをするわけではないが、言わせるのがいい。好みの問題だ。調教の結果はちゃんと出ている。俺好みの、自分を保ったまま耐え切れず乱れる、素敵なマゾっ娘に育ちそうだ。どこかでそんなことを一瞬だけ考え、そして全ての思考を止めた。
 あとはただ一点を目指すのみ。
「ぐ、うう、くぅ」
 歯を食いしばり息を止め、大きく早く腰を動かして奥まで突きあげた。早く出せと訴える、ギリギリまで高まった内側からの要求は苦痛に近い。すりあげこすりつけ、狂ったように打ち付け、そして世界の全てが弾けた。
「千紗っ! う、ううっ、ぐっ……、うおっ!」
 奥に叩きつけ食い込ませて、俺は吼えた。
「ああっ、ご主人さまああぁっ!」
 彼女の内側が、潰そうとしているかのように食い締める。その締め付けに逆らって勢いよく射精し、びくびくとしゃくりあげながらなおも彼女の中にこすりつけ、数秒の、けれど最上の快楽に身を委ねる。目の前がぐらりと揺れるようなすさまじい放出感に腰が震えた。
「あ、ああ、あああ……ご主人、さまあ……」
 自由を奪われた身体を跳ねるように震わせていた彼女から、少しずつ力が抜けていく。ぽたぽたと落ちる俺の汗に顔と身体を汚されながら、彼女は弱々しく喘いだ。
 縛られた両腕と全身を弛緩させ、無理やり開かされた脚がだらりと垂れ下がった様子が痛々しい。拷問器のように打ち込まれた花びらが陵辱の名残にひくひくと震えていた。レイプされた少女のような無残な姿のまま、彼女はうっすらと目を開けて俺を見た。どこか虚ろなまなざしに、快楽と共に吹き飛んでいた理性が戻る。背中に、何とも言いようのない罪悪感が走った。
「千紗……」
 荒い息で肩を揺らしながら身を伏せ何かを取り繕うように、薄く開いた小さな唇に優しくキスをした。朦朧としながらも舌を出して応えてくる彼女の健気さに、一旦は静まった筈の暗い欲望が熱く沸き立つ。愛しいと思えば思うほど狂って行く。治まらない。抑えられない。

 もっと欲しい。全てが欲しい。手放せない。手放すもんか。
 この女は俺が見つけた。俺が愛した。俺のものだ。

 ――永遠に、縛り付けてやる。

   -おわり-
2005/01/24
  おまけのあとがき
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