あたしの彼はご主人さま 第二部
彼とあたしの嘘とキス -10

「よし、これでいいな」
 彼はあたしの手首をベルトで縛って、その先をシャワーフックに引っ掛けた。防水仕様のローターが低くうなりながら近付いてくる。胸元から触れてゆっくりと円を描くように振動が乳首に近付いてくる。
「ああ、ご主人さま……」
 身体の奥にまで響くようなその振動に、あそこがひくひくするのが自分でもわかる。乳首をすり潰すようにローターを強くねじ込まれて、腰が揺れてしまいそうになる。喘ぎながら顔を上げると、すぐ間近に彼の酷薄な笑みがあった。
「物欲しそうな顔だな、この淫乱猫」
「あ、あんっ」
 握り潰すように胸をつかまれて、痛みより快感に声を出してしまう。肌に指の跡が紅く残るのが嬉しい。あたしが彼の所有物だと教えてくれているみたいで、すごく嬉しい。
「こっちもぐちゃぐちゃだな」
 彼の指があたしのそこを開いた。直接触られてもいないうちに、もうそこは恥ずかしいくらいにドロドロになってしまっている。彼に指摘されるよりも先に自分でわかっていたけれど、でも彼に見られていると思うと余計に感じてしまう。
「いや。見ないでください」
「垂れてきてるな」
 あたしの懇願などお構いなしにおかしそうに笑いながら、彼はローターを持った手の位置をゆっくり下げて行った。お腹からゆっくりとふとももを、そしてふとももの内側を、痛いような気持ちいいような振動が揺らす。それは焦らすように少しずつ移動して、でももうちょっとと言うところで方向転換してしまう。あたしは両腕を縛られたまま、身悶えするしかなかった。
「あっ……」
 思わず漏らしてしまった不満の声に彼は顔を上げた。底光りする目があたしをじっと見つめる。歪んだ笑みを浮かべる唇に背筋がゾクゾクした。
「そろそろ、我慢できなくなってきたか?」
 あそこの毛を軽くつまんで引っ張りながら、彼は低く笑った。
「ここら中がぬるぬるするぞ。全部おまえが垂れ流したものだ、このメス猫が」
 そう言いながらふとももの内側を撫でてくれた。さわさわとお尻のほうにまで指を伸ばして、ときどき軽く爪で引っ掻く。焦らされている感じと心地いい彼の指と、そして軽い痛みで、あたしは完全に弄ばれていた。もっとして欲しくて脚を開いても、一番肝心なところにだけは触ってくれない。
 こんなに欲しいのに。一刻も早く、欲しいのに。あたしが欲しがってることなんて、とっくに知ってるくせに。
「ご主人さま、お願いです、早く……。千紗、狂っちゃいそうなんです」
「ちゃんと言え」
 叩きつけられる彼のひどい言葉にすがるように見上げても、冷酷な笑みはそれ以上は応えてくれない。彼の言葉に泣きそうだけど、でも。
「甘えるな」
 ――あたし、今、いじめられてるんだ。ご主人さまにいじめられてるんだ。
「何が欲しいのか、その口でちゃんと言え」
 バスルームに低く響く命令の言葉に、あたしの脳が融けて行く。
 忘れかけていた奴隷としての意識が目覚めて行く。
「ご主人さまのが欲しいです!」
 早口でそう叫んで、そしてあたしは彼の視線を惹きつけるようにねだるように、いやらしく腰を揺らした。
「千紗のここに、ご主人さまのを挿れてくださいっ!」
 叫ぶあたしを五秒ほどじっと見つめてから、彼はちょっとだけ笑った。
「いいだろう、挿れてやる」
 かすれた声でそれだけを言うと、左腕であたしの右足をひじに引っ掛けるように持ち上げる。バランスが取れなくなって後ろへ倒れそうになったけれど、彼が腕でかばってくれたから、頭を壁に打ち付けずに済んだ。ほっとしたのもつかの間、腰を突き出すように引っ張られた。彼の熱くて丸いつるんとした先っぽが、あたしのあそこに触れる。
「挿れるぞ、千紗」
 あたしを真正面からじっと見て、そして彼は短くそう言った。
「はい、ご主人さま」
 彼のそのまなざしを、あたしは一生忘れないと思う。泣きそうにも優しく笑っているようにも思えた、その目。
 大好きな人。あたしの大好きな人。
 あたしの、ご主人さま。
「ああ、く、あくっ」
「く、う……」
 ゆっくりと彼があたしの中へ入ってくる。何ヶ月ぶりかの彼のものは、気持ちいいと言うには程遠かったけど、でも。
「痛いか?」
 ちょっとだけど、彼の息が乱れているのがわかる。これだけで彼が何か反応してくれるって言うのはすごく珍しくて、だからそれは嬉しかったけど。
「だいじょうぶ、です。大丈夫……。く、ううっ」
 じりじりと入り込んでくる引き裂かれそうな痛みに、逃げるつもりなんかないのに、勝手に身体が逃げようとする。
「千紗、我慢できるか。ムリならそれでもいいぞ」
「いやっ。やめないで、お願いっ!」
 腰を引きそうになった彼を制するように、あたしは声を上げる。縛られたままの手首がもどかしい。自由なら、思いっきり抱きしめるのに。
「すぐに、平気になります。だからやめないで。ちゃんと奥まで入れてください」
 やめて欲しくない。ここで途中でやめられちゃったら、あたし、あたし。
 でも彼はあたしの願いを聞き入れてはくれなかった。抱き寄せてくれていた腕でゆっくりと距離を取ってあたしを壁に押し付けるようにして、そのまま離れてしまった。脚を抱えていた手も外されて、あたしは泣きそうな気持ちで彼を見上げた。
「やだ、いやっ。お願いっ!」
 シャワーフックに両手をかけられたまま、あたしをじっと見下ろすその瞳に叫んだ。その顔はなんだかとても穏やかで、『ご主人さま』から『ユーキさん』に戻っちゃったのかなとも一瞬思ったけれど。
「仕方ないヤツだな」
 おかしそうに低く笑うと、彼はあたしの手を縛っていたベルトをフックから外した。そのまま少し乱暴に、バスマットに押し倒される。うつ伏せるような体勢になったあたしの背に彼が覆い被さってくる。ぐいと腰を抱き上げられて、頬と両肩をバスマットにつけた土下座するような姿勢で、後ろから彼に貫かれた。
「え? あ、ああっ!」
 ずりずりと入り込んでくる感覚にひざが震えた。勝手に逃げようとした身体を抑えつけて、体重をかけるようにして彼が侵入してくる。さっきよりはましだけど、でも痛くて苦しい。苦しいけど、でも。
「いいぞ、千紗」
 少しずつ腰を揺らしながら、彼はうめくようにそう言った。
「比べ物にならないな。やっぱりおまえが一番いい」
「ありがとうございます。嬉しいです」
 本当に嬉しかった。涙が出そうなくらいに嬉しかった。誰かと比べられてるとかその誰かが誰なのかとか、もうあたしにとってはどうでもよかった。
 あたしはこの人が好き。ユーキさんが好き。ご主人さまが大好き。
「千紗のでいっぱい気持ちよくなってください」
 言いながら、あたしは肩を動かすようにして上半身をくねらせた。彼の腰に擦り付けるようにお尻を左右に素早く振ると、彼が息を詰める気配が伝わってくる。あたしの中でびくびくと動くそれが偶然すごく感じる場所に当たって、あたしは思わず声を上げた。
「あ、ご主人さま、気持ちいいです。あん、いいっ」
 動物のような体勢で、頬をバスマットにべったりつけて後ろから彼に犯されて、舌を出して喘ぐ。尖った乳首がマットのでこぼこにちょっとだけこすれる感じがたまらなくて、あたしは更に小刻みに激しく腰を振った。
「そんなにいいのか。いやらしい眺めだぞ、この淫乱猫」
「はい! すごくすごくよくて、千紗はもう、イっちゃいそうですっ」
 そう叫ぶと彼はご褒美のようにぐいと一気に突き込んでくれた。身体の奥の奥を殴られるような苦痛と快楽が混じった一撃に、あたしはびくりと痙攣する。
「もうイくのか。早いな」
 低くかすれた笑い声が身体の奥に響く。嘲笑われていると辱められてると思うだけで、あたしのあそこがひくひくする。ごつごつこすれる感覚に頭の中が白くぼやけて行く。
「ご主人さま、千紗はもうイきたいですっ。イかせてください!」
 そこに見える快感の頂点が欲しくてたまらないのに、あとちょっとなのに、なぜか彼はスピードを緩めた。
「いや、いやです! お願い、イかせてっ!」
 ゆっくりと揺らすだけの淡い物足りない快感に、あたしは身悶えするしかない。
「イきたければ勝手にイけ。指が空いてるだろうが」
 言いながら彼は、半ば身体の下敷きになっていたあたしの腕を引っ張り出した。手首はベルトで縛られたままでも、確かに指は動かせる、けど。
「淫乱猫らしく、自分でクリをイジってイけよ」
 低い笑い声があたしを嘲笑う。
「毎日やってるんだろ。自分でイジってイきまくってるんだろ。それを見せろ」
 冷酷な言葉と一緒に大きな手が右手の人差し指と中指を揃えて、あたしのあそこに当てた。指先に触れるこりっとした小さな尖りの感触とその瞬間の鋭い快感に、背筋に電流が走る。
「あ、や、いやっ!」
「気持ちいいか?」
 あたしのことを知り尽くした彼の手の動きが、ぬるぬるの液を塗りつけるようにゆっくりと円を描いた。大きな手のひらに包み込まれて、強制的に自分で触らされてしまう。
「あ、や、いやあっ! お願いやめてっ! や、やだ! やあっ!」
 でもいやだと言いながら、あたしは腰を振っていた。彼が突いてくれるのに併せて身体をくねらせて、指にクリトリスを擦り付ける。
「あ、ん。あんっ、あ、はあっはあっ」
 いつのまにか彼の両手はあたしの手から離れていた。彼にその様子を後ろから見られているのがわかっていても、もうやめられない。自分の意志でクリトリスをイジりながら、突いてもらうのが気持ちよくて、あたしは肩で息をしながら喘ぐ。開きっぱなしの口の端からよだれが垂れているのがわかるけど、でももう、そんなことどうでもいいっ!
「セックスしながらオナニーとは、千紗は欲張りだな。そんなに気持ちいいか」
「はい。千紗、気持ちよくってすごく気持ちよくって、ああ、いいのっ!」
 自分で何を言ってるのかもわからない。身体が痙攣し始める。あそこがびくびくと震えるのがわかる。ぴしりと意識にひびが入る、その瞬間。
「あ、イくっ! イくイく! すごいっ、イくうっ!!」
「う、おっ」
 低い声と一緒にあたしのお尻をつかんでいる彼の手に力が入った。そして彼が猛然と突き始める。痛いほどのその強さに、あたしは意識を戻す暇もなく、またもや頂点に押し上げられた。
「あ、やあっ! またイく! イきますっ!」
「イけ! 何回でもイき狂え!」
「イく! ああっイっちゃう! イくっ!!」
 もう、何がどうなっているのかもわからない。バスマットに頭をこすりつけて腰を振って脚を震わせて、あたしは叫び続ける。
「千紗。そろそろ、出すぞ」
 低く抑えられた声は、それでも語尾がちょっと震えている。こういうときに平気な顔をするのは男の見栄で、ホントはギリギリなのだと後戻りできないのだと、彼が前に言ってたことがあった。一瞬頭をよぎったのは、今のあたしは危ない時期で、そして今の彼はスキンつけてないってことで。だからつまり、できちゃうかもしれないってことだけど。でも。
「はい、ください! 千紗の中にご主人さまのミルク、くださいっ!」
 いつも通り、あたしはそう答えた。普段はちゃんとしてるからそれほど言葉の意味を考えたことはなかったけど、でも今はあたし、本当に出されちゃうんだ。中に出されるのって初めてだけど、危ないのはわかってるけど、でも。
「よし、出してやる。たっぷり注ぎ込んでやるからな」
「はい、ご主人さま。いっぱいいっぱい! あああっ、またイくうっ!」
 白く染まった意識の中で、何かが爆発する。それは多分、不安だとか迷いだとか、そういうことだったのだと思う。彼の激しい息遣いを遠くに聞きながら、あたしはお尻を高く上げたまま、バスマットの上にくたりと倒れ込んだ。

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