この指を伸ばす先-21

「ん、あ……んっ、は……っ、あ、あぁん……」
 ぐったりとうつぶせ加減にシーツに横になった理香を背後から抱き寄せ、高瀬はふとももの隙間に手を入れて秘部を弄んでいた。揃えて入れた人差し指と中指で抜き差しを繰り返すと、あふれてくる愛液は高瀬の手のひらまで濡らし、蕩けた肉が包み込むようにやわらかく先端に吸い付いてくる。まるで挑発するかのように男の指に絡みつきながら、けれど朝から亮治、達也、そして高瀬と三人もの男に陵辱された理香の疲労は限界近くまで蓄積されていた。
「も、ダメぇ……ゆるし、て……あ、ぅんっ!」
「さっきからそんなことばっかり言って、でもほら、ここ」
「あっ、はぁ……っ、やっ、ダメ! ダメだって! あっ、ああっ」
 ともすれば眠りに落ちてしまいそうなほど意識レベルは低下していても、敏感すぎる身体は高瀬の指使いに反応してしまう。ぐちゅぐちゅと音を立てるほど激しい突き上げと軽く押さえながら振動を与えるクリトリス攻めに、腕一本さえままならないほど重い身体では抵抗もできず、あっけないほど簡単に理香は快感の声を上げていた。
「やぁんっ、もうっ! あ、……い、くぅんっ!」
「さぁ、我慢しないで。気持ちよくなればいいんだよ。ここ、気持ちいいだろう?」
 笑みを帯びた声で囁くと、高瀬は身体をくねらせ腰をひくつかせる理香の背中に舌を這わせた。舌全体を擦り付けるように舐めながらちゅっちゅとキスを繰り返し、タイミングを合わせて敏感な肉の芽を攻める。優しく細かく強くを微妙な差で繰り返す高瀬のテクニックに理香はぶるりと全身を震わせた。
「はぁっ! あっ、や、いやぁ……んっくぅっ!」
 理香の内側がぎゅうっと締まり爆発した快感に硬直する。強く閉じたまぶたに涙をにじませて喘ぐはかなげな見た目とはうらはらに、その内側は男の指をぎゅっと握って放さずリズミカルにうねりくねり、挑発するかのように擦り付けてくる。
 ――三戦目は厳しいな……。
 理香の嬌声と淫靡な指先の感覚を楽しみ更なる快感を送り込みながら、高瀬はベッドボードのデジタル時計に目を向けた。
 仕事を終えてあとはもう寝るだけと言った状況でのベッドタイムならばまだしも、まだ時間は夕方で、しかも対外業務の多い高瀬のスケジュールは深夜にまで及ぶ。このあとの五時と七時にも予定が入っている。三十路一歩手前の年齢とは言え体力的にはまだまだ自信もあるが、時間的制約はやむを得ない。そろそろこの仕事も切り上げなければならないだろう。冷静に判断を下しつつ、それでもなおこの身体には未練があった。
 ――せめて、あと三十分あれば。
 ぬるぬると指に絡み付いてくる肉の感触に先ほどまでの快感を思い出してしまう。記憶に触発された下腹部が熱を帯びる。近頃ついぞなかった自身の反応に高瀬はわずかに苦笑した。
 ――今までこんな女はいなかったからな、仕方ないか。
 過去、関係を持った女性が聞けば激怒しそうなことを考えながら高瀬は身を起こし、背後から大きくふとももを割り裂いた。嬌声をBGMに、蜜にまみれたサーモンピンクが指に犯される様を眺める。生き物のように蠢きながら指を飲み込みヨダレを垂らして絡みつく、この世でもっとも卑猥な光景が高瀬の冷静な思考が吹き飛ばした。
 ――ま、急いで済ませればいいか。
 そう努力しなくともこの女が相手では早めに終わってしまうだろうと苦々しく思いながら、高瀬はゆっくりと指を引き抜いた。あっという間に回復した自身を握りしめ硬度を確認する。腰を浮かせて角度を調節し覆いかぶさるようにぐいと差し込んだ。
「えっ、あっ、んくぅっ!」
 指の感覚の喪失と挿入の衝撃に驚きびくんと跳ねた身体を強く引き寄せると、奥まで一気に侵入し、息つく暇もなく高瀬は快感に震える肌にリズムを叩き込んだ。指先でクリトリスをつまみ捏ね回しながら、内側からもGスポットを鋭く突き上げる。
「いっ、あぁっ! あ、はっ、あぁんっ」
 急に激しさを増した愛撫に、快楽の嵐にもみくちゃにされる小舟のような理香は、身も世もなくよがるだけだった。ぬめる指でくにゅくにゅとクリトリスをねじられ、自分がバラバラになるかのように感じながら波に身を任せる。
「あ、は……っ! い、くっ!」
 あっけないほど簡単に快感の頂点を得た理香が全身を震わせて叫ぶ。目じりから涙をこぼし苦しげに首を振りながらも絡みついた媚肉は高瀬を舐めねぶり食い締める。それに応え、高瀬は抱えあげた尻に指を食い込ませんばかりにして強く奥まで打ち込んだ。
「き、ぁああっ! あっ、は、あぁっ!」
「う、く……、ぅっ」
 悲鳴を上げシーツをかきむしって悶える理香の壁がぐにゅりとねじれ、蜜をなすりつけるように高瀬をしごく。くびれの部分に絡むようにこすり上げられ、高瀬は目を閉じ息を詰めた。身体全体を叩きつけ突き破るかのように大きく突き上げるが、その努力をあざ笑うように、高瀬をくるんだ柔肉はひだの一枚一枚を擦り付けヒクヒクと震える。
 やっぱり、怖いおんな、だ。
 奥へ奥へと引き込まれる底なし沼のような締め付けに逆らい、高瀬は必死で抜き差しを繰り返した。歯を食いしばり肩を揺らして腰を叩きつける。突き上げるたび引き抜くたび理香は身体をくねらせて嬌声を上げ、けれどそれ以上の快楽を高瀬に与える。
 ――嘘だろ、もう、マズ……っ!
 全てを持っていかれそうな快感にくらりと回る意識の中、自らへの最後通告のようなつぶやきとほぼ同時に理香の内部がぐにゅりと揺れた。
「い……あ、あぁぁ……っ!」
 いっそう高く理香が声をあげるのと同時に、高瀬を咥えこんだ秘唇が隙間からぶちゅっと潮を吹いた。熱い蜜をたたえた洞が生き物のようにぐにゃぐにゃと高瀬に絡みつく。茎を絞りながらくびれをざわざわとなぞり、先端に吸い付き、溝に沿ってちゅぱちゅぱと舐め上げる。
「う、あぁ……っ!」
 潮を吹く瞬間の理香の蠢きをまともに受けた高瀬の理性の糸がぶつりと途切れる。許容量を超えた快感に目の前が暗くなる。熱くぬめった粘膜の攻撃に耐え切れず、高瀬は腰を震わせ天を仰ぎ、三度目の悦楽を享受した。



 最初に声をかけた時の反応と、その後あっさりランチについてきたことからしても、子どものような顔をした元部下は今の上司が何をやっているのか、そして今がどういう状況にあるのか、その辺りの事情を全く知らないのだろう。例の役員秘書に犯罪まがいの手出しまで頼んできたとは、課長も相当追い詰められたと見える。高瀬は内心でそう踏んでいた。
 羽振りだけは昔と変わらないが、金のなる木は枯れつつある。新任役員殿は赴任後、数日と経たないうちに社内の使途不明金の行き先を把握したらしい。関係者の口止めも社内ファイルの偽装も消去も、時間稼ぎにさえならなかったと言うわけだ。証拠隠滅の手際は決して悪くなかった。あちらが一枚も二枚も上手だっただけだ。切れ者の噂は本当だったと言うわけだ。
『社長の甥だかMBAだか知らんが、何も知らん若造がえらそうに!』
 焦りを隠そうともしない怒鳴り声に思わず漏れた苦笑は、うつむくふりでごまかした。本気でそう思っているのなら逆恨みもいいところだ。会社に対して起こした背信行為に個人的欲望以上の理由はなかっただろうと、言えるものなら面と向かって言ってやりたい。
 とは言え、間抜けを装いまったくわかっていないふりを通してはいるが、数々の行為を手伝った自分も道義的倫理的責任は問われるだろう。そこは殊勝な態度で応じ、だまされて手伝わされていた誠に申し訳ないと、深く頭を下げるしかない。噂の切れ者甥っ子殿にどこまで演技が通じるかは疑問もあるが、自ら動いた跡はできる限り消している。証拠が少なければ知らぬ存ぜぬで押し切ることもできるだろう。灰色決着に持ち込むことは可能かもしれない。全く知らなかったと言い張るには深入りしすぎているのは事実だが、スリルがあるからこそゲームは面白いものだ。悪役の楽しさは実際にやってみなければわからない。
 ――そう、面白かった。
 ちょっとした情報にさえ高値が付く現実に当初は驚き慌てもしたが、次第にどこまで値が釣りあがるのかどこが一番出すのかと予想を立てて遊ぶようになった。当たることもあれば外れることもある。知的快楽と言えるほど真っ当ではなかったが、楽しすぎて手が引けなくなった。ネタが少なくなれば自ら探して回った。その頃には株に群がるハイエナが欲しがる餌か否かの区別はつくようになっていた。ヤツらが目の色を変えて食いついてくる様子に笑いが止まらなかった。そのせいで逃げ時を間違えたような気はする。
 ――けど、アンタと心中するつもりはないよ。
 確かに、入社時に口を利いてもらった。顔も名前も知らないほど遠い親戚の面倒を見てくれた課長には深く感謝しているが、それらの恩義はすでに何倍にもして返している。泥舟から逃げるのは本能と言うものだ。責められる筋合いはない。
 ――問題はこの女、だな。
 快楽の名残にあえぎ震えるやわらかな肌を抱きしめたまま、高瀬はゆっくりとシーツに倒れ込んだ。全身を覆う心地よい気だるさに目を閉じながらも、無意識に肌をまさぐり乳首をつまみ、クリトリスに蜜を塗りつける。そのたび律儀に反応する身体がいとおしくなる。
 ――こんなにも手放したくなくなるとは、思わなかった……。

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