花を召しませ番外編
ライクネスラブ -3

「やっぱり、ダメかぁ」
 美雪さんの裸エプロン姿……、かぁ。
 内心で呟き軽く溜息をつくと、横目でじろりと睨みつけられた。
 最初からこの場の雰囲気を変えることが目的であって、裸エプロンにそれほど期待をしていたわけではないけれど、こうも真っ正面から否定されるとがっかりするのも事実だ。
「ホントにまったく、もう。何を考えてんだか……」
 俺への不平を口の中でぶつぶつ呟きながら、彼女は皿に残った中身を箸先で丁寧に寄せ始めた。それを器用に摘み上げてパクパクと食べて行く。への字に曲がった唇の中央から三センチほどぴょこんと飛び出した貝割れ菜が間抜けで可愛い。それをうさぎのようにもぐもぐと唇を動かして、少しずつ口の中に納めていく様子に笑ってしまう。
「何笑ってんのよっ」
「あ、いや。別に」
 それでもどうしようもなくこみ上げてくる笑いを咳ばらいでごまかしながら、横を向いてこっそり深呼吸をする。そっと目を上げると、彼女の精一杯の冷ややかな視線が俺に向けられていた。それでも、彼女の機嫌を直させるという当初の目的はちゃんと果たしたのだから、よしとするしかないだろう。
「とりあえず、裸エプロンは冗談と言うことで。朝食だけよろしくね」
「まあ、それだけならね」
 もの言いたげな視線をちろりと上げて渋々と言った体でそう頷くと、彼女はきれいに空になった皿の上に箸を揃えて置いた。
「あー、美味しかった。ごちそうさま」
「はい、お粗末さまでした」
 彼女が満足げに笑ってくれる。その屈託のなさが微笑ましい。
 俺は一人っ子だから実感することはできないけれど、もしも家族に女の子が……姉か妹がいたのならばこんな華やかな毎日なのだろうか。そう考えると、世間にはゴマンといるであろう姉妹のいる男が羨ましくなってくる。
 うちの母親は……よく寝込んでたからなぁ。
 それでも俺がまだずっと子どもの頃には母親もそれなりに元気で、家族みんなで食卓を囲んでいた。晩酌のビールで酔ってはワケのわからない昔話を始める父親と、穏やかに笑っていた母親。あのときの笑顔と美雪さんの今の雰囲気は、すごく似て……。
 ふと自分の内側から浮き上がってきたその考えにぞくりと背筋が凍る。シャツの内側で肌が泡立っていくのがわかる。
 ――俺は今、誰と誰を比べようとしていた?
「シズくん……?」
 掛けられた声に顔を上げようとして、いつのまにか自分が俯いていたことに気付く。向けられていた訝しげな表情に慌てて作り笑いを浮かべた。
「なあに、美雪さん」
「え、あ……。ううん、なんでも」
 納得していない顔のまま、それでも彼女は頷いてくれる。
 こう言う時、普段は幼く見える彼女が俺よりもずっと大人なのだと改めて思う。俺が言いたくないことをムリに詮索することはなく、聞いて欲しい話を途中で遮ることもない。踏み込みすぎず落ち着いて見守ってくれる。その穏やかな空気を物足りないと感じることもあるけれど、だからこその楽しみもある。
 ギャップはやっぱ、いいよな。
 内心でそう呟きながら皿に残ったご飯を片付け、コップを一気に干す。まだ疑問を残した瞳にわざとらしくにっこりと笑いかける。
「じゃあ食べ終わったことだし、デザートに行きますか」
 手を伸ばして空になった皿と箸を片付け始めると、甘いもの好きの彼女は嬉しそうに目を輝かせた。
「え、シズくん、デザートも作ってくれたの?」
「ううん、作ってないよ」
「え?」
 戸惑う彼女を尻目に重ねた皿を持って立ち上がる。こじんまりとしたキッチンの片隅の小さな流しの中に食べ終えた食器をそっと置いてから振り返った。俺の言葉を理解していない丸い眼が物問いげに向けられていた。
 こういうとき、おかしなくらい鈍い美雪さんも、可愛い。
「じゃあ、えっと……?」
 首をかしげながら俺を見上げる彼女の様子に笑みを噛み殺しながら、手を伸ばしてピンクのスウェットに包まれた細い腕を引っ張る。眉をひそめたまま、けれどおとなしく立ち上がってくれた彼女を抱き寄せる。
「でも、俺にとってはデザートなんだ」
 しかも、この上なく甘い。
「美雪さん、今日あの日じゃないよね?」
「え、あ、あの……シズくん?」
 問い掛けるような声で瞳で、それでも俺の言いたいことはちゃんと理解して、彼女は曖昧な顔のまま頷いた。そして返事をしたこと自体を恥じるように目を伏せる。
「いいんだよね?」
 重ねて訊いても彼女は返答をしてくれない。それでも、はっきりと口には出さないながらも生理中にはセックスは決してしてはならないと思い込み断固とした態度で拒否してくる彼女が否定をしないと言うことは、大丈夫なのだろう。
「美雪さん」
 小さなあご先に指をかけて引き戻す。それでも俺と目が合わないようにと、ムリに首をねじって目を伏せる、その表情を覗き込んだ。勝手に高揚して行く気分がのどに絡んで、奇妙に声がかすれる。
 俺がバカみたいに盛り上がっているのは、とっくにバレているだろう。それでもわからない顔をするのは、彼女なりの羞恥心なのか、俺を制止させるつもりなのか。その程度で沸騰した男が止まるわけがないとそろそろ気付いてくれてもいい頃だけど、そんな彼女の鈍さが可愛いとも思う。
「シズ、くん」
 囁くように俺の名を口にしながら、恥ずかしそうに胸に頬をすり寄せてくるその表情にたまらなくなる。
「美雪さん」
 強く抱きしめると手のひらに骨の感覚が返ってくる、豊満とは言いがたいやや控え目の身体は、彼女の性格を表わしているような気もする。ここまで夢中になってしまうのは、今まで身近にはいなかったタイプだからだろうか、それとも……。
 ぞくりと肌の内側に流れた寒気を振り払うように唇を塞ぎ舌を絡ませる。彼女の口内に侵入させた舌先で上あごをぞろりと撫で上げると、腕の中でひくりと震える。
「ん、ふ……んっ」
 あわせたままの唇の隙間から苦しげにうめく声がさらに俺を煽る。逃げ回る舌を捉え強く吸い上げると、シャツの胸元をつかむ彼女の指先に力が入った。唇を離すと苦しげに肩で息をしながらも快楽の熱に溶けたまなざしで俺を見上げる。その表情に欲求がもう一段階上へ登る。
「美雪さん、えっちな顔になってる」 
 恥ずかしがる彼女を言葉でなぶること。それも快楽を増長させる。多分俺は、そういうタイプの人間なんだろう。
「や、だぁ……っ」
「イヤじゃないでしょ。気持ちいいんでしょ?」
 言いながら、スウェットの裾から手を入れた。
「え、あっ、や……」
「ダメダメ、逃がさないからね」
 慌てたように上半身をくねらせる彼女の腰を抱き寄せ、滑り込ませた手のひらを一気に胸元へ上げる。ブラカップの上から強く乳首に親指を擦り付け、全体をゆっくり揉む。
「や、あ……っ。だめ、やぁっ」
 抵抗の仕草を見せながらも反応を始める、そんな敏感すぎる身体は俺にとっては幸運そのものだけど、彼女にとってはそうではないかもしれない。しばらく指先で弄んでからきゅっと乳首をつまむと、彼女は驚いたようにひくんと身を震わせた。
「や、やめ……、シズくん」
 それでも彼女は子どものように首を横に振り、俺から逃げようと上体をそらした。その体勢を利用してテーブルの上に押し倒し、スウェットパンツの中に手を滑り込ませる。
「えっ、あっ?」
 驚いたように声を上げる彼女の唇を塞ぎながら、ショーツの脇から指を差し込む。やわらかな毛と同時にぬるりとした液体が触れた。熱く濡れた筋をゆっくり上下になぞるように指をこすりつけると、組み敷いた身体が俺の下でひくりと震えた。
「ん、んんっ……、ん、ふ、ふぅ……」
 口内を犯されたままの彼女は、苦しげにうめきながらもその部分は俺を誘うようにヒクヒクと蠢く。掻き回すと、ちゅくちゅくと小さな音を立てて蜜が指に絡んでくる。
「ほら、ここはもうこんなになってる」
「や、だ……ぁっ」
 熱い息で否定の言葉を吐かれて治まる男がいるわけがない。もっと感じて欲しくなる。彼女が狂うところを見たくなる。欲望に溶けた理性がドロドロとたぎる中、そんなことばかりが思考を回る。指が勝手に彼女が一番感じる部分へと向かう。
「やっ、シズくん、だめ、だめだって……あ、あっあっ! んっ、あ、ああ……っ!」
 クリトリスを人差し指と中指ではさみ、くちゅくちゅと音を立ててこすりつけると、彼女の声が切羽詰ってくる。泣き声混じりの高い悲鳴が心地いい。半開きのまま熱い吐息を漏らす表情がたまらなくセクシーだ。もっとイジめたくなる。
「ダメって、どうして?」
「や、だって、こんなとこで……や、あ、あぁっ」
 クリ攻めを親指に任せ、中指を彼女の中へと沈みこませる。つぷつぷと早いリズムで突き立てると、彼女はのどをそらせて喘ぎながら腰を揺らした。
「こんなとこじゃイヤ? もうベッド行く?」
「そういうことじゃなくて、あ、やだ……ぁっ」
 抵抗しようとする手を無視して素早くブラをずらし、先ほどまでの刺激ですでに赤く色づき始めていた乳首を口に含んだ。指を遊ばせるリズムと併せて、舌先で何度も突付き軽く吸い上げる。
「だめだって、シズく……あ、ん……っ」
「でも、感じてるでしょ。いつもより濡れてるよ」
 空気を含ませるように掻き回すと、ぐちゅぐちゅとひどく卑猥な大きな音が立つ。彼女の耳にもちゃんと届いたのだろう、恥ずかしそうに目を伏せながらもその目元は快感に赤く染まっている。
「ね、こんなとこでするのも興奮する?」
「ち、ちがっ……あ、や、やぁ……ん」
 否定するようにふるふると頭を振りながら熱く溶けたまなざしで俺を見上げる。その甘い響きに誘われて、血液が一気に腰の辺りに溜まってくるのがわかる。右手でベルトを外しジッパーを下ろすと、我ながら呆れるほど浅ましく突き上げていた。トランクスをずらして引きずり出し、彼女の手を取り添える。
「美雪さん、お願い」
 それだけで意思疎通が可能なくらいには、今まで肌を重ねている。触れた一瞬、戸惑ったように手を引こうとして、けれどおずおずと彼女は指を回してくれた。
「え……、こう?」
 ためらいがちに言いながらきゅっと握りしめ、そしてゆっくりとしごき始める。やわらかな指と手のひらにこすられる快感に息が詰まる。
「ん、いい。すげー気持ちいい」
 言いながら、舌先で乳首を弾くように舐めながら中指で突き上げる。指でさえも締め付けてくる狭い壁を第二関節を曲げるようにして押し返すと、彼女はびくんと震えた。

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