花を召しませ番外編
ライクネスラブ -4

「ん、美雪さんもここ好き?」
「ちが……あ、やっ」
 強く首を振り、意地になったように手の動きを大きく早くして俺を攻めながらも、熱いまなざしと震えるような吐息が彼女が官能の渦に巻き込まれていることを表していた。それでも恥ずかしがって頑なに否定しようとするところが可愛い。
「ここじゃないの? じゃあこっち?」
 少しずつ位置をずらして周囲を何度も押し上げ反応を見る。指先をこすりつけるようにやわらかな壁を突き上げると、耐え切れなくなったのか彼女は高い悲鳴を上げた。
「あ、や、やだぁ……っ! あ、あ、ああ……っ!」
 涙を振りまくように左右に激しく首を振りながら身悶える、その様子には見覚えがあった。そろそろ頂点が見えてきたのだろう。彼女の内側が俺の指を食い締めるリズムが徐々に早まってくる。
「どうしたの、美雪さん。もうイきそう?」
「やっ、いやっ!」
 否定しながらも彼女はひくっひくっと全身を震わせ腰を揺らす。こんなの、俺じゃなくっても感じまくってるのだと一目でわかる。どんな言葉でも打ち消すことなんてできやしない。
「もう、『いや』じゃなくってさ、ホントのこと言ってよ。イきそうでしょ? イきたいでしょ?」
 耳元に囁くと、彼女は強く眼を閉じたままぷるぷると首を振った。
 必死に快楽に抵抗しようとする表情がかえっていやらしい。演技なんかじゃなく本気で感じているその表情は、そこらのAV女優には簡単に出せそうもない卑猥な色香だった。
「ねえ、イきたいって言ってみて」
 突きこむ指のリズムを緩めながら言うと、彼女はうっすらと目を開けて俺を見た。目じりに溜まった涙を舌先で拭うと短い吐息を漏らしてくれる。そのどこか子どものような顔に、おかしな具合にそそられる。
「ねえ、言って。イきたいでしょ? なら、そう言って」
「や……やぁ……んっ」
 本気でイヤなら、こんな甘えるような声は出さないはずだと思う。俺がいじめるのが好きなように、彼女も本当はこんなことを言われるのが好きなのだろう。性的快楽に関してひどく潔癖な彼女はそれを決して認めてはくれないけれど、彼女が思っているよりも素直な身体はセックスの快感にきちんと応えてくれる。言葉をかけるたび、熱い肉の洞の奥からとぷりと溢れてくる。そういう意味でも俺たちは相性がいい。その反応を見ているだけで盛り上がってくる。
「美雪さん」
 細いラインを描く耳の淵を軽く噛みながら彼女の手の上からぎゅっと握りしめ、そのままゆっくりと腰を繰り出す。手のことを忘れていた自分に慌てたように、彼女の指が急に動き始める。敏感な先端をぬるりとこすられて、その快感に息を飲んだ。
「シズくん……気持ちいい、の?」
「うん」
 目元を赤らめ息も絶え絶えの状態で俺のことを気にしてくれる。テーブルに押し倒されてスウェットの上を首元までまくり上げられた格好で、男のものに指を絡めての上目遣い。その淫らさに一気にテンションが上がる。内側からぐうっと競り上がってきた感覚に息が詰まる。
「あっ、動いた」
 驚いたようにそう言うと、彼女は自分の手元にちろりと目を向けた。釣られてそこへ視線を移す。グロテスクに反り返ったペニスを握るやわらかな手がところどころ濡れ光るのが、ひどく卑猥だ。
「ん、すげー気持ちいいから」
「そんなに?」
 自分に無い器官の感覚に疑問を持つのは男女共だろう、子どものような表情で尋ねてくる。こんなことをしている最中だと言うのに無邪気に見えるから不思議だ。
「あったりまえでしょ。美雪さんがそんなカッコでチンポしごいてくれてるのに、気持ちよくないわけないでしょ」
「や、もう、そういうことばっかり……」
 言いながら恥ずかしげに彼女は目をそらす。彼女がこの手のあからさまな単語にひどく敏感なのは百も承知だ。逃げようとする視線に回り込んでムリヤリ捉まえ、薄く開いた唇を奪う。
「ん、んん……っ」
 隙間からぬるりと侵入させた舌に、彼女の舌が触れる。絡めて引っ張り出し吸い上げると、驚いたように声を上げながらも受け入れてくれる。呼吸を制限したまま、差し込んだまま半ば役割を忘れかけていた指先を激しく動かした。中指に添えて薬指を挿入し、親指でクリトリスを強く押さえて震わせる。突然再開した愛撫に彼女は敏感に反応した。
「んんっ! ん、ん、ふ……ふ、んん……っ!」
 上半身をくねらせ、空中に浮いた脚をばたつかせながら腰を振る。背を反らせひくひくと全身を震わせる。その様子が興奮を煽りすぎて苦しい。
「美雪さん。もう俺……我慢できないんだけど」
 荒い息を隠すこともできないまま耳元に囁くと、彼女はうっすらと目を開けた。
「ね、もう挿れていい? ここでこのまま、してもいい?」
 本気で我慢できない。拒否されたとしてもムリヤリにでも突っ込んでしまいそうだった。自分が止められない。けれど運のいいことに、彼女は恥ずかしそうに眼を伏せながらも俺のロクでもない提案を受け入れ、その合図としてこっくりと頷いてくれた。
「それじゃ……」
「いいよ、このままで」
 なけなしの理性をはたいて、いったん身体を離そうと奉仕してくれる彼女の手を剥がしかけると、彼女は俯いたままそう言った。
「え? いや、それはそうなんだけど」
 場所を移動するつもりはない。ベッドよりも多少不便なのは事実だが、そこはそれ、キッチンプレイにはキッチンプレイとして意味がある。できれば彼女にエプロンを――というのはもういいとして。
「ううん、そういう意味じゃなくって。あの、ええと……」
 言い難そうに何度か口をもごもごと動かしてから、思い切ったように彼女は視線を上げた。
「ええとね、あの。わたし、今日は大丈夫な日なの。心配ない日なの。だから、このまま……してもいい、よ」
「え」
 それって、つまり……。
「着けなくて、いい? ホントに?」
 コンドームに避妊以外の効果があることは今さら言うまでもない。場合に寄っては避妊より性病予防がメインであることさえある。
 性病と一口に言っても、数週間の投薬で簡単に治るものもあれば、生命を損ねる可能性を否定できないほどの代物もある。一応保健所で無料のHIV検査を受けたし、それ以後は気をつけるようにしているからシロだろうけれど、相手構わずセックスしていた時期のことを考えると、やはり多少は不安も残る。
 ――なのに。
「ホントに、いいの?」
「うん。大丈夫」
 どうしてそんなに簡単に俺を受け入れることができるんだろう。あのときも、そして今も。必死でアタックをかけているつもりでも、最後は結局この人の思うがままだ。弄ばれているのが俺のほうだったら……どうしよう?
 頭の片隅のどこかでちらりと間抜けなことを考えたりもするけれど、それでも恥ずかしそうな瞳の極上の誘惑には勝てない。勝てるはずがない。
「じゃあ、挿れる……よ」
 彼女が再び頷くのを確認してから、小さなひざをつかんでゆっくりと開かせた。浮いた腰からスウェットパンツとショーツを丸みに沿って桃の皮を剥くように脱がせると、恥ずかしそうに顔をそむけながら、彼女の手がするりと逃げる。握りしめてくれていたぬくもりがなくなったことを少しだけ残念に思いながら残りを足首から引き抜き、自分で握り直して頼りなく丸い丘に張り付く淡い翳りの更に奥へと、先端を押し当てる。上下にこすりつけるだけで、妖しくぬめった狭間へ吸い込まれて行きそうだ。ぬちゅっと響く水音がひどく卑猥に俺をそそる。
「行く、よ。美雪……さん」
「ん……んっ、あ、あ……ぁっ」
 ゆっくりと体重を乗せて、ムリヤリ掻き分け侵入して行く。抵抗するように熱く絡み付いてくる肉の壁の感触は、直接触れ合った粘膜同士ならではの生々しさだった。彼女が肩を揺らせて大きく息をつくたび、連動するように内側がきゅっと締めてくる。
「美雪さん、すげー締め付けてくるよ。気持ちいい?」
「や、だぁっ」
 耳に舌を這わせるついでにそう囁くと、彼女は切なそうに眉をひそめた。ぽおっと染まった目元と苦しげな眉と熱い吐息を吐きだす唇。その表情におかしなほど煽られる。
「なんでやなの。こんなにトロトロに濡らして、どこがやなの?」
 俺の言葉に、彼女は子どもが駄々をこねるときのように首を横に振る。
 けれど、どんなに否定をしてもムダだ。どこをどうすればいいのか彼女がどう反応するのかもう全部覚えた。経験の少ない彼女を弄ぶことは簡単だった。彼女が求めてくれるまで焦らすのも一気に突き落とすのも俺の自由だ。
「美雪さん」
 ぐいと突き上げると高い嬌声が聞こえる。初めて直に触れ合った彼女は、これ以上ないほど繊細に妖しく蠢いて、苦しいほどの快感を送り込んでくれる。 
「やっ! あ、あ……っ、あああっ!」
 まるで拷問を受けているかのように身悶えながら、実際には俺を絞り上げる。強くこすりつけた瞬間、破裂しそうに膨らんだ先を握るようにぎゅっと締めつけられて、そのあまりの快感に一瞬息が止まった。
「あ、すげーキツ……」
 自分の声が情けなくうわずるのがわかる。ギシリと音がしそうなほどタイトに締めてくる感触に、内側からの圧力がどんどん高まってくる。
「や、シズくん……。あ、はっ、あ、ああ……っ」
 彼女の感じるポイントを意識しながら押し上げるように腰を繰り出すたび、甘い声を上げながら身をくねらせる。カフェに置かれているそれよりは少し大きめの、やわらかな楕円の濃いブランデー色のテーブルの上、首までスウェットをめくり上げ男に圧し掛かれ犯された淫らな姿の彼女も、このいつもと違う状況に興奮しているようだった。とは言え、こっちは平静を装うどころか、脳が煮えるほど煽られている。今の俺は、到底まともじゃない。
「はあっ、あ、あ、あああっ、あ、ぁ……っ!」
 ガクガクと痙攣のように腰を揺らし、彼女は息を止めたまま背を大きくそらしてぶるりと全身を震わせた。どうやらイったらしい。
「何、美雪さん。もうイったの?」
 直後の一瞬の弛緩を利用して、繋がったまま彼女を抱き起こした。全体重が下半身に掛からないよう、腕を突っ張りながらゆっくりと椅子に座った。
「や、あ……は……」
 快楽に溶けた虚ろな瞳で熱い息を吐きながら彼女が俺を見る。普段と違って、彼女を見上げるようになるのが少し新鮮だ。両腕で脚を抱え込んで左右に揺すりながら、クッションを利用して前後に腰を揺らす。
「ダメでしょ、勝手にイっちゃ」
 目の前で誘う、赤く腫れ上がった乳首を唇に挟むように含んで吸い上げた。
「んっ、んん……っ!」
 強く舌を当てると痛いらしく、逃げようとわずかに身をくねらせる。けれどその反応とはうらはらに、内側は嬉しそうにきゅっと締め付けてくる。
 本当に、俺たちは相性がいい。もっともっといじめたくなる。

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