マスカレイド 第二部
あいするいみは-2

「誰に、言ってるんだ。春奈チャン?」
 からかうような口調だけはそのままに、担任の先生の仮面の下から鋭いまなざしが表れる。
 右手の割り箸をテーブルの上に置くと、先生はゆっくり首を回すようにしてあたしを見た。目付きとはうらはらの、笑みを残した口元に背中を冷たいものが這う。手首からひじまでの短い産毛がふわーっと立ち上がって、その下の肌が細かな水玉模様を浮き上がらせる。
「やっ、違う! 違うのっ!」
 反射的に身を引いても、座っていたパイプ椅子の背もたれにがたんとぶつかるだけ。先生の手の届く範囲から逃げようと、そろそろと腰を上げかけた瞬間、先生は椅子を蹴り飛ばす勢いで一気に立ち上がった。
「ごっ、ごめんなさいっ!」
 椅子の背が床を殴る鈍い音と同時に伸びてきた腕をかわそうとして振り回した両手は、逆につかまれた。暴れる暇もなく両手首を左手一本で鷲づかみにされて身動きが取れなくなる。ぎゅうっと骨を締め付けてくる太い指先にその痛みに、捉えられてしまった感覚に、恐怖とそれ以外の感情が沸き上がってきてしまう。縛られたり腕をつかまれたり押さえつけられたり痛い思いをしたそのあとに、気持ちいいことが待っていると、この身体が覚えてしまってるから。
「やっ、センセ……」
 肩をねじるようにして逃げようとするあたしを、優しいとは言いがたい力で先生の太い腕が抱き寄せる。あごを握り潰そうとしているみたいな指先に押されて首が折れそうな角度で上を向けさせられる。十五センチと離れていないところから黒い瞳に真っ直ぐ見つめられて動けなくなる。
「センセ……?」
 変だなって思う。おかしいって思う。あたしが好きなのは佐上先生なのに、どうしてあたしは藤元先生に抱きしめられてるんだろう。どうして逃げようとしないんだろう。
「春奈」
 聞こえるか聞こえないかギリギリの声で先生があたしの名前を呟く。あたしを見る目がゆっくりと細まって、そして軽く触れるだけのキスが降りてくる。あたしも目を閉じて先生のキスを受ける。
「春奈」
 目の前で動く唇。囁く声。あたしの名前。佐上先生は絶対に呼んでくれない、あたしの名前。
「せん、せ……」
 怖いくらい真面目な表情のまま、藤元先生は素早く制服のブラウスのボタン外した。次いで胸元のリボンをむしり取って、どこかへぽいと投げ捨てた。隙間から入り込んできた大きな手のひらが、何かを確かめるようにそっとお腹を撫でまわす。
「やっ、あ……」
 お腹なんて感じる場所じゃないと思うのに、でも身体は期待に震えてしまう。胸とあそこがじわじわと熱くなってきて、早くさわって欲しいと訴えてくる。
「ん、んんっ」
 焦れるあたしをからかうように、大きな手のひらがゆっくりと上がってくる。背中に廻った手がすうっと一周した。先生は一瞬だけちょっと不思議そうな顔をして、でもすぐに納得したように頷いた。
「へえ、今日はフロントホックか」
 こういうのも悪くないな、なんて呟きながら、先生の指先はホックをぎゅっと握ってそのままもぞもぞして、そして器用に片手で外した。ふわりと浮いた布地のあいだに滑り込んできた大きな手のひらが全体できゅっと胸をつかむ。そのまま親指の先を擦り付けるようにして乳首を責めてくる。待っていたそこは、三度ほど指先でこねられただけできゅうっと固くなってしまう。
「あ、はぁっ……ん、く」
「なんだ。もうコリコリじゃないか」
 くくっとのどの奥で低く笑いながら先生は強く乳首をつまんだ。ねじられて弾かれて、鋭い快感に身体が震える。
「あいつに抱かれたくて、朝からずっと待ってたんだろ。残念だったよな」
 嘲笑うようにそう言いながら、藤元先生はちょっとよくわからない顔をした。口元は笑っているのに目は怒っているように見える。あたしを睨みつけているように見える。
「それとも、俺でも仁でも、どっちでもいいってか?」
「やっ、ん、んん……」
 答える間もなく、乱暴なキスが首が折れそうな角度から振ってきて、あたしの逃げ道を塞いだ。ぬるりと入り込んできた苦い舌が強く吸い上げる。息さえできないような激しさに頭が朦朧としてくる。
「や、センセ……」
「何が、イヤなんだよっ」
 スカートに掛かった手に思わず身をよじると、半分怒鳴っているみたいな声が返ってきた。抵抗する暇もなく、ショーツの内側に大きな手が入り込んでくる。
 少し汗ばんだ手のひらにざらりと撫で上げられた瞬間、さっきからずっと痛いほど意識していたあそこから何かがとろりとこぼれてくるのがわかった。それが何かなんて考えるまでもなかった。
「あ、ん、んん……」
 先生の指が何の引っかかりもなくずぷずぷと入り込んでくる。そのまま中でぐるりと半回転すると、第二関節がごりっといいところを引っ掻く。素早く細かく出し入れされてあそこがひくひくしてしまう。
「い、あっ、ん……」
「もうぐちょぐちょだな」
 わざと音を立てるように掻き回しながら、先生は冷たい目であたしを見たまま小さく笑った。ぬちゅっと音を立てて指を引き抜いて、その指でクリちゃんをくいと押す。たっぷりとあたしのいやらしい液がついた指先で細かく振動させるように突付く。そうされるとあまりの気持ちよさにどうしていいかわからなくなってしまう。
「やっ、ああっ、やあああっ」
 軽く指先で弾かれて、その瞬間の痛みと痛みが引いた直後のとろけるような快感に身体がわなないた。脚の力が一気に抜けて、がくんと先生の胸の中に倒れ込んでしまう。
「なんだ、もうイったのか。相変わらず、はえーな」
 ガクガクと全身を波打たせ返事もできないあたしを嘲笑うように、先生はのどの奥でくっと低い声を立てる。
「どうする? もうすぐに突っ込んで欲しいか?」
 あたしを見るいやらしい目、いやらしい言葉。
「あ、は、ふ……っ」
 声も出ないままぼんやりと顔をあげた。
 公称百五十五センチのあたしと、多分だけど百八十センチを越えるであろう藤元先生との身長差もあって、ほとんど真上くらいから藤元先生の視線が降ってくる。あたしを見る冷たい目がちょっとだけ細まって、ショーツの中から出てきた手がゆっくりとあごをつかんだ。首が折れそうな角度で上を向かされてキスで塞がれる。あごをつかむ先生の指先がぬるぬるしていて、その全部があたしのだと思うと恥ずかしいけど。
「ん、ふっ、んん……」
 あたしの感じる場所を全部知っているみたいに、乱暴に繊細に、先生の舌が口の中を這い回った。舌先を捉えてちゅっと吸われると、背中からお尻の辺りにかけてぞわっとした感覚が走る。一度頂点を迎えて収まりかけたあたしの内側が、再び熱く潤んで行くのがわかる。
「あ、ん……せん、せ」
「欲しいか、春奈」
 藤元先生の声は佐上先生とは全然似てない。でも今は、今だけは、そのことを気にしない。
「ん、欲しい。欲しいです、センセ……」
 藤元先生のまなざしに、佐上先生を重ねる。佐上先生に見られているつもりになる。キスをねだるふりで眼を閉じて、頭の中に涼しげな目をさらさらの前髪をキレイなあごのラインを描く。手首を押さえつける太い指にそっと爪を立てる。
「せんせぇ」
 降ってきたキスを受け入れて、押されるままに長テーブルに仰向けに寝転がった。手首を鷲づかみにしていた大きな手が離れた。
「あ、センセ……」
 スカートがめくられて、ショーツが引き下ろされて行く。先生がそこを見ているのを意識しながら、されるがままに脚を大きく開いた。そっと触れた指がゆっくり上下する。指先で優しくクリちゃんを撫でられると、息が止まるほど気持ちいい、けど。
「や、センセ。早くぅ」
 眼を閉じたまま肩を揺らすようにしたおねだりに、先生はちょっとだけ低く笑った。先生たちがあたしをそうしたくせに、『最近の高校生は』なんてわざとらしい溜息をついて、遊ぶようにぬるぬるとさわっていた指先を離した。ゴムをつけているらしい少しの空白のあと、先生はあたしのそこに先端を押し付ける。
「挿れるぞ、春奈」
「ん、んんっ、あんんんんんっ!」
 答える時間もなく先生は一気に入り込んできた。ごりごりごりっとあたしの中を押し広げる。
「あ、あああっ」
 ぐいと一気に侵入してきた先生のそれにびくんと身体が震えた。いったん一番奥にぐうっと押し付けてからゆっくりと腰を引く。そしてすぐに入り込んでくる。そのスピードは思ったよりもゆっくりだったけど、一瞬たりとも止まらなかったから、積み重なった刺激に息があがってしまうのにほとんど時間はかからなかった。
「やっ、センセぇっ」
 こすりつけられる感覚に思わずのどをそらすと、ふとももを押さえつけていた大きな手のひらがふっと離れた。どうしたのかなと思う暇もなく、ちょっと乱暴にブラウスの前が全開にされる。指先を擦り付けるようにくにくにと乳首をイジられると、腰が揺れてしまう。ぐうっと背が持ち上がってしまう。
「気持ちいいか?」
 ずん、と奥まで強く突きながら先生が訊いてくる。
「ほら、どうなんだ、芝口」
「やっ、あ……っ!」
 わざとらしく先生口調で言いながら、先生は両方のきゅっと乳首をつまんだ。一瞬息を飲むくらいの痛みにも、やらしい声が出てしまう。痛いことをされたあと、そんな痛みなんてどうでもいいと思うほどの気持ちよさが待っていると、あたしの身体がもう覚えてしまったから。
 そして待つというほどの間もなく、先生の手はクリちゃんをそっと撫でてくれた。軽く突き上げながら細かく指先を震わせて、これ以上ないほどの気持ちよさにあたしを突き落とす。
「あ、ああっ! やっ、はっはっはっ、はぁん!」
 ぐっぐっと押し込まれるたびに腰が、そして身体の奥が震えるのが自分でもわかる。先生のが当たる角度が一番イイ場所で、それにクリちゃんへの刺激もすごくて、もうちょっとでイきそう。
「喘いでばっかりいないで、ちゃんと言いなさい。言わないとやめるぞ」
「あ、やだやだっ。やめないでっ」
 やめるなんて絶対ウソだと思うけど、でも先生の動きが一瞬だけでも止まると焦ってしまう。もうあとちょっとってところで放り出されたら、もしもそんなことになったら、先生にもっと恥ずかしいことを要求されるに決まっている。それなら、今おとなしく言うことを聞いたほうがずっといい。
「きもちいい、です」
「どこが?」
 跳ねるように返ってきた言葉に思わず目を開けてしまった。
 どこが、って……。
 見開いた視界に映ったのは、目を細めるように笑う先生だった。
 あたしと目が合うと、先生は上半身を折り曲げるようにキスをしてきた。ふっと唇が離れると、小さく息を吐く。歪んだ唇の端がイジワルで、でも優しくて、不覚にも『ちょっとカッコいいかも』なんて思ってしまう。
「ほら、これが好きなんだろ」
「やっ、あっ、んんんっ! く、ううん!」
 低い笑い声と同時に先生の動きが一気に早まった。すごいスピードで細かく一番イイところを突かれて耐え切れずに悲鳴を上げる。ぐうっと背中が持ち上がる。溜まった力が求める先へ進んで行く。
「や、あ……ダメっ! せんせ、もうダメっ」
「ダメ? なにがどうダメなんだ?」
「あっ、ああっせんせっ、せんせぇっ!」
「なんだ、もうイくのか?」
 おかしそうに笑う声が聞こえたけれど、もう応える余裕なんてない。閉じた視界の緑の闇にいくつも発生した小さな光の粒が、ぶわっと膨らんで次々に弾ける。
「やっ、イくっ! イくイくイくぅっ!」
 息ができなくなるような最高の数秒のあと、ひくひく震えるあたしの中から先生はずるりと引き抜いた。息をつく暇もなくごろんとうつ伏せにさせられる。お尻から上だけがテーブルに残ったちょっと恥ずかしい格好で、後ろからぐいとねじ込まれる。
「あっ、あっ、あああ……っ!」
 ゴリゴリゴリっと擦り付けられる感覚に思わずのけぞると、大きな手が後ろからあたしを抱きしめた。
「あっ、センセっ! せんせぇ……っ!」
 リズミカルな先生の突きにタイミングを併せてお尻を振って、もっともっとと快感を貪る。先生を貪る。
 頭の中に限界まで膨らんだ風船があるような気がする。それが爆発する瞬間を待っているような気がする。待ち焦がれているような気がする。
「いいぜ、イけよ。イきたいんだろ、何回でもイけ」
 首すじにかすれた声が吐きかけられると同時に、先生のが入ってるところのすぐ近くをぬるりとさわられた。二本の指先に挟まれたクリちゃんがぷるぷると捏ね回される。すでにかなり追い詰めれていたあたしに耐えられるわけなんてなかった。
「いっ、ひぃん!」
「お、すげ……」
 息ができなくなるような嵐の中で先生が低くうめく声がかすかに聞こえた。あたしの中の先生がビクビクと震える。
「いいぜ、春奈」
 荒い息を吐きながら先生はあたしを抱き起こして、大きく脚を開かせるように片足だけをテーブルに上げさせた。右の足だけで立った不安定な体勢で、激しく後ろから突かれる。先生の思うがままにガクガクと揺らされながら何度も絶叫する。
「やあっ、せんせ……センセっ! はっ、ああっ、ああああっ!」
 胸を鷲づかみにしてくる手の甲に爪を立てると、応えるように強く抱きしめてくれる。荒い息を吐きかけながら唇を押し付けるようにして何度も首すじにキスをしてくれる。

 佐上先生が好き。誰よりも一番好き。
 でも、佐上先生はこんなふうにキスしてくれない。こんなふうに抱きしめてくれない。名前を呼んでもくれない。その理由はわかってたし、納得してた。先生にとってあたしがどんな存在でも構わないと思っていた。
 あたしを大切に思ってくれなくてもそんな目で見てくれなくても、そのキレイな横顔を見ていられるだけで嬉しい。誰にも話せなくても相談できなくても、こんな素敵な人とえっちな関係なんだって思うだけで嬉しい。

 けど、それでもときどきは、やっぱり寂しい――。

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