マスカレイド 第二部
あいするいみは-20

「くぅ、は……っ」
 先生が大きく息を吐き出すのと同時に、髪の中に入り込んでいた指の力が抜けた。苦しそうな息遣いを聞きながら、あたしは口の中にぬるぬるとまとわりつく苦味を、唾液と混ぜてゆっくりと飲み込んだ。苦いししょっぱいし、今日は汗もかいてていろんな味がして、これを美味しいって言ったら閻魔さまに舌を引っこ抜かれちゃいそうだけど、でもイヤじゃないから不思議。あたしってやっぱり変態なのかもしれない。
「ちゅっ、ん、ぱ、ぁ……っ」
 ちゅっと軽く吸い上げながら、ゆっくりと先生から離れた。先っぽの小さなへこみと舌先がつぅっと一瞬だけつながる。一回出したはずなのに、まだまだ中身は満タンだぞってえらそうに突き立ったままで、全然角度も変わってない。男の人は一回出したら二回目までしばらく時間かかるものらしいけど、確かに佐上先生はそんなとこあったけど、でも藤元先生は全然そういうのがない。とても珍しいのかそれほどじゃないのか、あたしは二人しか知らないから普通ってわかんないけど。
「うっ、ふぅっ」
 ぺたんとシーツの上に座りこんで大きく息をついた。のどの奥にまだどろっとしたのが引っかかってるカンジで、ちょっと気持ち悪い。なんか飲んだらすっきりするんだけどなって思いながら、そおっと顔を上げた。
「ね、せんせ……」
 お水飲んできていいって訊こうとして、でもすぐにあきらめた。ポケットに片手を突っ込んでる先生の目は、どう見てもちょっと休憩したいなんて言葉を聞いてくれるようには思えない。手の中の平べったいパッケージを破りながら器用にパンツを脱ぎ捨てた先生が取り出したゴムをつけた。時間にしてほんの数秒、深呼吸するにも足りないくらいの短い沈黙のあと、伸びてきた手があたしの肩をつかんだ。
「おら、こっちへこい」
「きゃぁっ」
 乱暴にごろんとシーツに転がされる。後ろ手に縛られたまま横向きにあたしを寝転ばせると、大きな手のひらは左足のふとももを空中に押し上げた。天井に向かってひざを立てたような体勢のあそこに丸い感触が押し当てられる。
「挿れるぞ、春奈」
「あん、せんせ……」
 にぃっと笑うと、先生はゆっくりとあたしの中に入ってきた。
「あっ、ひぁっ……!」
 そこは、さっき先生の指で散々掻きまわされて、融けちゃうんじゃないかってくらいトロトロになっていた。軽く先生が腰を突き出しただけで滑るように入り込んでくる。いつもと違う角度でゴリゴリと壁を押し広げながら侵入される。それだけでちょっとイきそうになる。
「あ……は、ぁっ……ん、せん、せ……」
 そのまま先生は一気に奥まで進んで行き止まりにぐうっと食い込んだ。押し当てたままゆっくり腰を少しだけ揺らすと、くいっと押し上げられるのがわかる。
「あ、ん……っ」
 あたしが身体をくねらせると先生も気持ちいいみたいで、だからって簡単に声は出してくれたりはしないんだけど、でもちょっとだけ息が乱れる。大きく息を吐いたあと、それをごまかすみたいに大きな手のひらが頬を撫でた。可愛がられてる犬みたいに目をつぶって手に顔を擦りつける。ゆっくりと、優しい表情が降りてくる。
「春奈……」
「ん、せん、せ……」
 一度目は軽く当たるだけのキス。いつもそう。
 先生のキスは、最初はふれるだけ。二度目から少しずつ深くなる。あたしがどう反応するか、それでキスの深さが決まる。えっちのときも、自分の好きなように勝手にしてるみたいに見えて、先生はいつもあたしの反応を確かめてくれていた。痛いことだって、あたしが我慢できることしかしなかった。ホントにダメなことはしなかった。
「う、ふぅんっ!」
 唇を深く合わせたまま先生はゆっくり腰を引いて、そして打ち込んだ。ぐうっと行き止まりに押し付けて、少し待ってからゆっくりと腰を引く。
「あっ、せんせ……あ、はぁっ」
 今日の先生はいつもよりもずいぶん優しい。優しい先生なんてレアものかも。
「ここ、気持ちいいか?」
「ん、いい、よぉっ」
 くい、と短く打ち上げながら先生はゆっくりとあたしの中を動いた。ゆっくりされるのって、愛されてる感があっていいなぁ。最初はそう思ってたけど、だんだん物足りなくなってきた。何回か繰り返してるうちに、先生のリズムとあたしがして欲しいタイミングが少しずつズレてくる。奥まで欲しいときに途中で止めてゆっくり引き抜かれると、身もだえするくらいに苦しい。次の衝撃を待っていると、信じられないくらいあそこがジンジンしてくる。
「せん、せぇ……っ」
「どうした、春奈?」
 優しいまなざしと軽いキスが降ってくる。ホントに今日の先生は優しい。優しくされるのは好き。優しい先生は好き。それはウソじゃないけど、でも。
「ぁっ、は……ぁっ、せんせっ、ん、っちゅっ」
「ん、はる、な……」
 キスをしながら先生があたしの中をゆっくり動く。名前を呼ばれながら髪を撫でられると、ホント愛されてるって気がしてきちゃう。素直に嬉しいって思っちゃう。誰かに見られたらまずいからできないけど、先生と手をつないで街歩きまったりデートとかして、そのさいちゅうとかにこの優しさ見せられたら、一瞬で好きになっちゃうだろうな。
「ね、せんせ……」
「ん? どうした、春奈」
 それでもあたしは、先生の穏やかな笑顔をうっとりなんて見つめられない。冷たい目で嘲るような口調で、あたしの快感を見つめてて欲しい。いつもの先生みたいに、犯すみたいに乱暴に抱いて欲しい。苦しいくらいひどいことされたい。自分が壊れちゃうんじゃないかって怖くなるくらいムチャクチャにされたいって思っちゃう。
 こんなことを望んじゃうあたしは、もう普通じゃない。わかってる。わかってる、けど。
「せんせ、おねがい。ねぇ……」
 肩を揺らして腰をくねらせて、佐上先生に教えられたように腹筋とお尻に力を入れた。あたしの中から逃げようとする先生をつかんで引き寄せる、そんなイメージで先生のをぎゅっと締めつける。
「う、おっ……」
 あたしはデキの悪い生徒だから何回頑張ってもダメで、今までうまくできて佐上先生に褒められたことはあんまりないんだけど、それでも藤元先生は驚いたみたい。短い唸り声を上げて、そして先生はあたしを睨みつけた。怖いくらいの視線を向けられても気にならない。もっと欲しくて欲しくて。
「おねがい、はやくぅ……」
 動きの止まる一瞬が苦しくなるくらいもどかしい。お腹の中がジリジリ焼けてくる。もっとして、激しくして、奥まで思いっきり突いて。そんなことしか浮かばない。
「おねがい、せんせぇ……」
 肩をくねらせて腰を揺らして、思いっきり力を入れて先生のをぎゅーっとすると、先生はぴくっと眉を吊り上げた。
「春奈、おまえ……」
 ほとんど唇を動かさず、うめくように先生はそう言った。音がしそうなくらいに歯を食いしばって、憎々しげにゆがんだ頬がカッコイイ。突き刺さりそうなくらい鋭くなった目が素敵で、ひどいことされちゃいそうな予感に、それだけでじぃんとしちゃう。
「こっのおっ!」
「いっ、やっ、ぁっ、ああああぁぁっ!」
 大きな手のひらが思いっきりあたしを押さえつけて、音がしそうなほど激しく先生の身体がぶつかった。お腹の中を拳で殴られたみたいな痛みと衝撃に、目の前ががぁんと大きく揺れた。
「きっ、あ……っ! う、ぁぁ……っ!」
「人が珍しく気分に浸ってたってのに、ムードぶっ壊しやがってっ!」
 優しさのカケラもない手つきがぎゅうっと乳首を引っ張った。痛い、ちぎれちゃうって怖くなった瞬間、先生は手を離してくれた。ほっとする間もなく遠慮のない指先にぴちっと弾かれて、その痛みに硬直する。
「ああ、悪かったよ、俺が間違っていた! おまえに気を使ってやる必要なんてねーんだったよな、このマゾがっ!」
「きっ、ひっ……っ、あああぁっ!」
 腹立たしそうに吐き捨てながら、先生はあたしの両脚を抱え上げた。入ったままの先生の角度が変わって、ぐいっと違うところを押してくる。いきなりの刺激に、後ろ手に縛られたまま身悶えるあたしなんて関係なく、先生は折りたたんだふとももを押さえつけて上からのしかかってきた。なんの容赦もなく、ガンガン腰を叩きつけ始める。
「やっ、ああっ! せんせっ、やめっ……苦し……っ」
「苦しい? 『気持ちいい』の間違いだろうがっ!」
 あたしを潰そうとしてるみたいに体重をかけて腰を打ちつけながら、先生は痺れたような痛みを訴える乳首をきゅうっと強く吸った。休みを置くように一度そっと舐めてから、きっと歯を当てる。肌が裂けそうな痛みと、痛みが引いた直後の快感が全身に走った。
「いっ! やぁっ、やめてぇっ!」
 痛みでイっちゃいそうになる。後ろ手に縛られたままの手で、先生の代わりにシーツに思いっきり爪を立てた。だけどいつものサディスト丸出し状態になった先生は、あたしの中を犯しながら乳首をぎゅっとひねって笑った。
「おまえは痛いのがいいンだろがっ! もっとしてくださいって言えよ!」
「いた、いぃ……っ、あ、うぅっ」
 潰そうとしてるみたいに乳首を指先でつまみながら、先生の大きな身体が覆いかぶさってくる。ベッド全体が揺れるくらい思いっきり叩き込んでくる。痛みと、それを軽く超える快感に脳がくらりと揺れて、強くつむったまぶたの裏の、黒っぽい緑色に白い光の粒が生まれた。

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