花を召しませ番外編
White HESH -8

「あっ、あ、あぁっ! シズ、くぅん……あ、はぁっ」
 くちゅっと音を立てて突き込まれるたび、小さな突起をぬるぬると撫で上げられるたび、身体の奥が歓びに震える。少し速まった吐息が耳に吐きかけられることにも感情を煽られる。彼に与えられる巧みな愛撫に抑えられない声が浴槽全体に響く。小さな泡がぷちぷちと弾けるような感覚が理性を白く染めて行く。
「美雪さんのここ、すげー締め付け。指潰されそ」
 鏡越しに楽しそうな笑顔を見せながら彼の左手がわたしの胸に触れた。さわられていなかったが故に敏感になっていた乳首に泡の残った指先を擦り付けられる。ねじるように優しくつねられ、大きな手のひらで荒っぽく揉みしだかれて、背筋に電流が流れる。下腹部の快感ですでに限界を迎えつつあったわたしに、胸への刺激は最後の一撃だった。一瞬で高まった気が遠くなりそうな感覚に我を忘れる。
「や、あああぁ……っ!」
「あ、ダメだよ、まだイっちゃ」
 強くつむった瞼の裏に小さな火花が見えかけたそのとき、彼の手が急に停まった。燃え上がりかけていた快感が一気に弱まり、どうしようもない渇望だけが残る。
「やっ! やだぁ……」
「やだじゃないの。まったくもう」
 肩で息をしながら腰を擦り付けるようにして続きをねだるわたしに、わざとらしく顔をしかめて見せると、彼はゆっくりと愛撫を再開した。
「ホント、すぐに一人でイこうとするんだから。さっき散々イったでしょ? ちょっとくらい我慢できないの?」
 たしなめるような口調で言いながら、彼の手が先ほどまでよりも大きくひざを開かせた。抵抗することなど思いつかないまま脚を広げ、背後から彼に弄ばれあえぐ自分の姿を鏡で見る。舐めるような彼の視線にも、快感が欲しいと身をくねらせる。
「美雪さんってば、物欲しそうな顔しちゃって。そんなにイきたい?」
「イきたい、よぉ……」
「まったく、しょうがないな」
 溜息をつくように言いながら、これ以上開かないというほどまでわたしの脚を大きく広げさせると、くちゅくちゅと音を立てる彼の指がそのスピードを上げた。
「こんなぐちゃぐちゃのドロドロにして。ホント、美雪さんってばエロいなー」
 卑猥な言葉を投げかけながら、彼はわたしのもっとも感じる部分を細かく丁寧になぞり続けた。指先を浅く突き込んではすぐに引いて、細かく振動させて小さく素早くくるくると円を描く。
「あ、シズくん……あぁっ」
 自分が弄ばれる音がくちゅくちゅと耳に響く。顔を上げれば目の前にその様子が映っている。鏡越しの彼の目がわたしの痴態を見つめている。けれど頂点を迎え損ねたことで白く融けてしまっていたわたしには、それを恥ずかしいと考える理性はもう残っていなかった。
「お願い、シズくん。もう……!」
 指では物足りない。彼が欲しい。彼を受け入れたい。彼のものに貫かれて狂いたい。それ以外は考えられない。
「そうだな、これ以上焦らすのは可哀想かな、っていうか、実は俺も限界だし」
 小さく呟きながら、彼は背後の洗面器を引き寄せた。その中から取り出した見覚えのある正方形の薄いものを取り出し、手早くパッケージを開ける。
「ちょっと美雪さん、ごめんね」
 わたしから手を離すと身体ごと横を向き、いつも使っているそれを慣れた手つきで自分のものに被せる。ぺたりと床に座ったわたしが彼を振り仰ぐよりも早くいつもの笑顔がこちらへ向く。
「はい、お待たせー」
 長い腕を伸ばすようにして彼がわたしを抱き寄せる。彼の思惑に気付く暇もなく、先ほどと同じ体勢――つまり、後ろ向きで大きく脚を開いたはしたない姿で彼の上にまたがった体勢を取らされた。
「え、シズくんっ?」
 身動きさえできないうちに彼のお腹がわたしのお尻に触れる。強く天を指す皮膜越しの彼のものが、はしたなく大きく口を空けたわたしの女の部分にぬるりと当たった。そこでようやく彼が何を考えているのかを、そして自分が何を求められているのかを知った。
「ちょ、ちょっと待っ……! あ、あっ……ああ……っ!」
 その恥ずかしすぎる姿勢に慌てて逃げようとしたわたしを、彼だけではなく、世界と、そしてこともあろうにわたし自身が裏切った。重力とわたしの体重を味方につけた彼の強い力に抗しきれずゆっくりと腰が沈む。ずずっと内側を突き上げてきた感覚に声を上げてしまう。
「は……っ、やっぱ、気持ちい……」
 背中から回ってきた腕がぎゅっとわたしを抱きしめる。少しかすれた声が首すじに吐きかけられる。そのセクシーな響きに悪寒にも似た予感が走る。
 わたしはまた狂ってしまう。彼の前にその姿を晒してしまう。その事実に薄い恐怖を抱いても、強烈な快感の予感にはとても勝てない。彼がわたしを求めてくれるという事実に満たされていくのがわかる。
「シズくん、気持ちい……?」
「いいよ、美雪さんサイコー。すっげーぬるぬるで締め付けてきて……。あー、どうしよう、すげーいい」
 うめくような声で応えてくれながら、彼は腰骨の上をつかんだ右手でわたしを左右に揺らした。空いた左手で胸を荒っぽく揉み、普段とは少し違う角度でわたしの中にこすりつけてくる。
「美雪さんは? 美雪さんも気持ちいい?」
「いい……いいの……ん、はっ」
 彼が揺らすように突き上げてくれるたびぎゅっと乳首をつまんでくれるたび、息がつまる。けれど体勢にムリがあるせいかいつもより刺激が物足りない。いつもの、嵐のような快感にはならない。彼の動きを封じるようにわたしが座っているのだからムリもないのだけれど、あと少しのところで手が届かない快感がじれったい。
 彼が欲しい。彼が与えてくれるであろう快楽が欲しい。その激しさに声を上げたい。それはどうしようもなく自分の内側から沸き起こってくる欲望だった。
「美雪さんもっと腰を振って。これくらいね」
 もっと、という彼の言葉に、どうやら自分でも気付かないうちに腰を動かしていたらしいと気付くが、恥ずかしいと思う余裕はなかった。彼の両手が腰骨の辺りをつかみ、わたしを誘導する。それに従うようにわたしは卑猥に腰をくねらせた。
「こ、う……?」
 彼に導かれるままに、軽く腰を浮かせてから自分の体重を彼に打ち付けるように座りなおした。彼の肌がお尻にふれると同時に彼のものがずずっと掘り進んでくる。びくりと震える彼自身がわたしの内側を叩く。左右に腰を振りながら何度も彼の上で弾んで、自ら快感を汲み上げる。
「そう、いいよ。美雪さんすげーいい。やらしくて、最高」
 耳元に囁きかけながら、彼はわたしを抱きしめるようにしながら片手で胸を、もう片手で一番敏感な小さな芽を指先でくにくにと転がした。つるんとすべる指先に、目の前がくらむほどの快感が全身を流れる。
「あっ、や……っ! あ、はぁっ、ん、くぅ……っ!」
 男と同じに、女も快感を求めている。それ自体は当たり前でも、ここまであからさまに表してもいいのだろうか。彼はわたしをどう思うだろう。どんな目で見るのだろう。そんな恐怖が脳裏をかすめても、次の瞬間には炎に降り掛けたわずかな水滴のように、じゅんと音を立ててあっけなく蒸発してしまう。
「美雪さん、いいよ、いい」
 荒い息を吐きかけながら、熱い舌がねっとりと首すじを舐め上げた。わたしの動きだけでは物足りないのか、彼が動き始める。後ろから回ってきた長い腕がヘビのように上半身に巻きつき、わたしの頼りない動きを補足するように大きく腰を弾ませる。
「シズく……気持ち、い……!」
 彼のものがビクビクと細かく震えながら擦り付けられる。ずんと突き刺さるような感覚に目がくらむ。ぐうっと膨らんだ彼のものに乱暴に掻き回されると息ができなくなる。痺れるような一瞬がそこまで来ているのがわかる。
「ん、もうイきそう? イっちゃいそう?」
「あ……イき、そ……」
 視界の端を不安定に揺れながら熱い渦が近づいてくる。あの渦に巻き込まれたい。何もわからなくなるほどの快感にすべてを忘れたい。気持ちよくなりたい。
「じゃあ、思いっきりイっちゃおっか」
 笑みを残した卑猥な囁きに反応する暇もなく、彼はわたしを抱きしめたまま椅子からすべるように降りた。自分がどうなっているのかもわからないうちに、ハートの形をしたピンクのタイルが敷き詰められた浴室の床に四つん這いにさせられる。彼の大きな手のひらががしりと腰をつかんで、そして。
「あっ、あ、あ、あああ……っ!」
 身体の奥を突き破って出てきそうなほどの激しさと、そのすぐ上の敏感な突起を攻める指先に、あっけないほど簡単にわたしは陥落した。
「あ、すげー締まる……」
 低くかすれた彼の声に、驚きと歓びが混じっているのを嬉しく思いながらも、わたしは自分の意志では自分の指一本さえ動かすことができなかった。すべてを彼にコントロールされ、与えられる快感を貪るだけだった。
「あ、あ……っ! あ、ん、くぅっ!」
 強いリズムで突きながら指先で優しく円を描かれると全身が震える。少し意地悪に指先でひねられて腕の力が抜けた。上半身がタイルの上に崩れ落ちた、土下座のような体勢のわたしに覆い被さった彼が、遠慮なく奥まで叩きつけてくる。連続して弾ける爆竹のような快感に声も出ない。
「あ、あ……っ! や、また……イくぅ……!」
 びくりと震え天を仰ぐと視界にシャワーの粒に半分ほど隠れた鏡があった。そこに映っていたのは、理性を忘れた獣のような男女の姿だった。
 だらしなく開いた唇から恥ずかしくなるほど卑猥な喘ぎを漏らした女が、快楽にうつろに融けたまなざしをわたしに向けてきた。高く差し出したお尻を貫かれ身悶えながらも、腰を左右に振り男を誘う。煽られた男がさらに女を攻め、女は歓喜に震える。鏡の中で繰り広げられる痴態に目が離せなくなる。
「なに、美雪さん。自分が突っ込まれてるの見て興奮してる?」
 わたしの様子に気付いた彼が、荒い息のあいだから笑う。嘲笑うような声の響きに身体が熱くなる。恥ずかしいと思うのに、それ以上に気持ちいい。
「じゃあ、もっとよく見せてあげるよ」
 言葉が終わるか終わらないかのうちに、強い腕が両肩をつかんだ。そのまま力任せにわたしの上半身を引き起こすと、彼は大きく腰を振るった。
「あっ、く……んっ」
 後ろから強く突かれ、よろけながらも彼の両腕に導かれるまま鏡に向かって進んだ。二歩三歩と壁に近づくと、床を這っていたわたしの右手が持ち上げられた。
「さ、ここつかんで」
 言われるままに鏡の両脇に取り付けられていた金属製の手すりをつかんだ。腕で鏡をまたぎ覗き込む体勢になったわたしに彼がくすりと笑う。
「これでよく見えるようになったでしょ」
「や、あ……」
 彼の言葉に視線を鏡の中に向け、背後から犯されるわたしを間近で見た。
 見ると同時に見られている。その様子さえ見られている。快楽に浮かれ融かされ歓ぶ様を見つめながら、わたしも見られている。わたし自身に、そして彼に。混乱したループに入り込んだ思考は絶え間なく送り込まれる快楽に崩壊する。
「あっ、やっ! い、イく! イっちゃ……あああっ!」
「やば、俺、も……」
 切羽詰った彼の声と同時に、その動きがさらに激しくなる。振り回されそうなほどに突き上げられあまりの快感に声さえ出ない。
「う、く……ぅっ」
 彼がわたしの中でびくんと跳ねる。叩き回るようにめちゃくちゃに暴れる。その動きにこれ以上はないと思っていた高みのさらに上へと押し流される。もう自分がどんな姿をしているのか、なにを言っているのかわからない。気持ちよくて気持ちよくて、そして。
「あ、は……あ、あああ……っ!」
 快感に真っ白に焼け落ちて行く思考の片隅で、鏡に向かって倒れ込みそうになったわたしを、背中から回ってきた腕が強く抱き止めてくれたことだけがわかった。

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